ハビエル・アギーレ新監督が就任した日本代表ですが、先週の初めての日本代表メンバー発表から今週は初めての練習を経て、デビュー戦となる9月5日のウルグアイ戦を迎えます。
その先週発表されたメンバー23人の中にはブラジルW杯登録メンバーも12人選出される一方で、代表初選出となるメンバーが5人含まれている事でフレッシュさが好感を呼んでいるようですね。
その初選出メンバーはアルビレックス新潟DF松原健、サガン鳥栖DF坂井達弥、ヴィッセル神戸MF森岡亮太、FW武藤嘉紀、サンフレッチェ広島FW皆川佑介の5人。特に8月28日のメンバー発表時には今季のJ1リーグ出場が4試合(先発4)だった坂井と、同7試合(先発1)の皆川は、逆に批判にもなりかねないくらいの経験値の乏しさもあり、マスコミやサポーターどころか選手本人も驚く選出となったと言えます。
Jリーグで結果を残す松原、森岡、武藤
将来性と共に稀少価値も備える皆川、坂井
その初選出の5人の特徴を見て行くと、10代の選手はいないため”若さ”は感じないものの、確実にJリーグで結果を残す選手と、稀少価値から将来性を感じさせる選手の2つの要素が浮かび上がって来ると思います。
今季から新潟へレンタル移籍で加入して右サイドバックの定位置を確保している松原は 「サイドバックとしては」という前提抜きに、フィジカル、身体能力に優れるDF。僕も今年1月にU21日本代表が参戦したU22アジアカップでの活躍から対人守備の強さや、攻守共に前へ出るアグレッシヴさが印象的でした。また、守備的ポジションならどこでもこなせる万能性も備えているU21代表の常連である彼が、今月中旬から韓国で開催されるアジア大会のメンバーから外されていたため、「もしや?」のフル代表選出は予想されました。(参照☛「U22アジアカップ・VS豪州レポート」 http://ameblo.jp/venger/archive5-201401.html#main )
森岡は今季からJ1復帰を果たした神戸でチームの軸となり、大型補強の目玉となったFWペドロ・ジュニオールとFWマルキーニョスの2人がゴールを量産するお膳立てする柔軟なドリブルとセンス溢れるスルーパスで強烈なアクセントを付けていました。現在J1リーグ5位と躍進するチームの中で開幕から全試合先発出場を続ける彼の代表入りはJリーグファンからすれば順当な選出だったと言えます。
武藤も含めてJリーグで結果を残す3人とは逆に、まだまだ実績に乏しい皆川には186cmの長身とフィジカルの強さを持って、パスワークに秀でた広島の中で融合し始めた”異分子”。大卒ルーキーながらリーグ2連覇するチームで中断明けから出場機会を掴み、すでに3ゴールと存在感を放ち始めています。
坂井は今季首位争いする鳥栖で堅守を見せる以上に、”左利きのセンターバック”という特徴が挙げられます。ブラジルW杯メンバーどころか、Jリーグを見渡しても”左利きのセンターバック”はほとんどいません。攻撃の開始地点となるセンターバックに左利きの選手がいる事で、より広角に攻撃できるというプラスアルファの要素があり、皆川と共に”稀少価値も含めた将来”が選出のポイントになったと考えられます。
絶好調の武藤が評価される理由
実績、将来性、稀少価値、戦術的柔軟性
そんな中で圧倒的な注目を浴びるのがFC東京の武藤。現在も慶應義塾大学に在学する”大学生Jリーガー”という肩書もあって話題を独占しています。ガンバサポーターならば、リーグ前半戦の対戦で彼の特徴である驚異的な加速力を活かしたスピード溢れるドリブル突破と、積極的なミドルシュートという武器によりゴールを許しているので覚えている方々も多いでしょう。ゴール以上に彼の突破力や前線からのプレッシングも強烈だった事も印象に残っています。
そんな彼は現在リーグ戦10無敗という好調なチームにあってブラジルW杯の中断明けとなるリーグ8試合で6ゴールを挙げるというチーム以上の絶好調です。持ち味の加速力とスピードをカウンターでより有効に使ったり、パスを引き出すオフ・ザ・ボールの動き出し、パスを受けてからの身体の向きと身のこなしなどには、インタビューからも聞き取れるインテリジェンス(知性)も見てとれます。
また、FC東京の中で際立っているのは戦術的柔軟性でもあると言えます。ガンバ戦はその象徴のような試合でしたが、今季から就任したJリーグ初のイタリア人指揮官となったマッシモ・フィッカデンティ監督による部分もあるでしょう。
彼が指揮するようになった今季のFC東京の基本的なゲームプランは、キックオフからペース配分よりもハイプレスを敢行して先制点を奪い、運動量も減少してくる後半半ばにはリードを活かして前に出てくる相手の裏を狙うカウンターから効果的な追加点を狙うというもの。基本布陣は【4-3-1-2】でスタートし、その場合の武藤はエドゥーや平山相太と2トップを組み、トップ下を担うのがMF河野広貴。システム上で”1”を担う彼はチームの中でもJリーグ中でも数少ない際立ったテクニックとアイデアを持った”ファンタジスタ”であり、FC東京は武藤よりも河野に攻撃面での自由を与える戦いを遂行しています。そのファンタジスタには常に自由を与え、負担を軽滅させているのが武藤。リードした後半半ばに中盤フラットの【4-4-2】へシフトすると、武藤はFWから左サイドMFへ入って十分な守備力で”4-4″の強固な守備ブロックの一端を担いながら、攻撃に切り替わるとスプリント(全速力)の落ちないドリブルで縦への推進力を見せて追加点や、キープによる時間稼ぎという戦術的柔軟性を披露しています。この点が勝負強さを重視するアギーレ監督に代表選出に至った理由なのではないか、と考えられるのではないでしょうか?
思い返せば、「自分達のサッカー」に自ら捕らわれ過ぎて惨敗したブラジルW杯での日本代表に最も必要な要素が”柔軟性”だったと考えられています。そこに現役大学生というフレッシュや、知性も加わった武藤は十分に代表でも重用されるべき選手。
また、2年後、4年後には彼に、FC東京に柔軟性や個人戦術、グループ戦術といったJリーグには今までにあまりない要素を植え付け、魅力的なチームを作っているフィッカデンティ監督にまで”代表招集”があれば良いのかもしれませんね。