九つの連邦州で構成される共和制国家のブンデスリーガ1部において、栄光の皿を争う12のクラブチ-ム。今季の勢力図はシュタイヤマルク州が最多の三。首都とオーバーエステライヒ州そして南部のケルンテン州各二。西側に目を向けるとチロル州、ザルツブルク州、フォアアールベルク州とやや東高西低か。さてこの六州で唯一州都のクラブではないのが、フォアアールベルクとなる。同州都のSWブレゲンツは2部。FCドルンビルン1913は現在レギオナルリーガ:ウェストに参戦。人口僅か六千人の村にあるクラブでもSCRAが州代表の看板を背負う強豪であることに偽りはない。
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アドルフ·ヒュッターの生まれ故郷はドルンビルン郡の街ホーエンエムス。アルタッハで降りる一駅前でその名を車窓から目にした。SCRAのユ-スで頭角を表したミッドフィルダ-が、グラ-ツ、リンツと渡り歩き再び懐かしのウェアに袖を通したのは1991年。しかしその名前を欧州メディアに広く報じられるのは、’93年からザルツブルクに在籍した七年の間。移籍初年度のUEFA杯では、ベスト16でポルトガルのスポルティングを延長戦、ベスト8でフランクフルトにアウェ-ゴ-ル差、ベスト4でカ-ルスル-エSCをPK戦と薄氷を踏む試合の連続ながら決勝まで勝ち上がる。オ-ルドファンの記憶に残るのはリスボンの強豪相手にアディショナルタイムに決めたヒュッターの同点弾。そしてフランクフルトとの初戦[1-0勝利]のゴ-ル。第二戦でも四人目のキッカ-で登場し成功している。
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もうひとつの山を登ってきたのはインテル·ミラノ。当時この大会は決勝戦もH&A方式。東西アルプスの山を隔てた両都市での試合···にはならなかった。
インテル戦の前週となる’94年4月19日、スコットランド代表との親善試合でA代表初スタメン初得点も記録している。二週連続してピッチに立ったのは“聖地”エルンス·ハッペル·シュタディオン。13,500人の動員を記録したスボルティング戦まではザルツブルクで開催されていたのだが、フランクフルト戦からは、ウィーンへと舞台が移され 47,000人を超える観客がエルンスト·ハッペルでザルツブルクの背中を押している。当然多くのウィーン市民を含まれておりこの決戦に国民が一丸。一方ネラッズーリが押し寄せたサンシ-ロの入場者数は八万を超えており、さすがに周辺を含めば150万人規模とイタリアのみならず欧州屈指の大都市圏。ロッソネロのサポ-タ-が足を運ぶことなどまず有り得ない。累積警告でヒュッターが出場停止のザルツブルクはホームで0-1の敗戦。第二戦のサンシーロではスタメン出場し前半はスコアレスで折り返す。1978年にはアウストリア·ウィーン、’85年にはSKラピド·ウィーンが共にカップウィナーズカップの決勝進出を果たしているがあと一歩銀杯に手は届かず無念の涙を流したオーストリア国民にとっては悲願ともいえる欧州タイトル。その夢を打ち砕いたのは後半20分オランダ代表ヴィム·ヨンク:Wim Jonk【1966年10月12日生】のゴール。連勝で頂上へと登り詰めたのは西側のインテルだった。
ラピドには強いアルタッハ 驚愕の先制
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実は2016年5月11日に一度だけSCRAの試合を取材した経験がある。ラピドが本拠地リニュ-アルの間、代用していたのがエルンスト·ハッペル。このシーズンはUEFAヨーロッパリーグ予選ラウンドで、ポルトガルのヴィトリア·ギマラインスとの白黒対決を制しクラブ史に新たな足跡を刻んだばかり。ちなみにこの試合も収容人員九千人のシュナーベルホルツ·シュタディオンではUEFAの規定を満たせず、インスブルクのチボリシュタディオンでの開催となった。
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一筋縄ではいかないだろうと思いつつプレス席に腰を降ろすと22分フィリップ·ネッツァー:Philipp Netzer【1985年10月02日生】がまさかの長距離弾を決めてSCRAが先制。ラピドが辛うじて引き分けに持ち込んだものの、個々のタレントで勝る相手に対し組織で封じ込める守備がはまりダミル·カナディ:Damir Čanadi【1970年05月06日】の手腕が光ったゲ-ムとして記憶に留める。
カナディとヒュッターの直接対決 ミラノに八万人よりもアルタッハの八千人
2013-14のシーズン独走状態で二部優勝を果たし昇格へと導いたカナディ。前任者はカールスルーエSCの監督経験もあるドイツ人ライナー·シャリンガー:Rainer Scharinger【1967年3月4日生】。その前にはトップチ-ムを初めて任されるアドルフ·ヒュッターが二部降格した2009年から古巣を率いていた。初年度は三位、その後二年連続で二位の好成績でも、プレ-オフシステムを採用せず優勝クラブのみが昇格できるこの国では意味をなさない。
カナディにとってSCRAでのブンデスリーガデビューとなる14-15シーズンは勝ち点59を獲得。シュトゥルム·グラーツを1ポイントの僅差で押し退けて、三位でのフィニッシュ。二位はラピド、連覇を達成したのが新指揮官にヒュッターを迎え冬の移籍市場で南野拓実が加わったレッドブルザルツブルクだった。
あの日あの時は■2014年11月9日オーストリアブンデスリーガ第15節SCラインドルフ·アルタッハ対レッドブルザルツブルク
アドルフヒュッターの首位ザルツブルクをシュナーベルホルツで迎え撃ったのは昇格クラブながら三位をキープするカナディのSCRアルタッハ。4-1のスコアでホームチームに軍配が上がる。立ち見を含めてキャパシティ八千五百のシュナーベルホルツで八千人を超える観客の動員は後にも先にも記憶にない。前述のとおり八万人を動員するミラノの人口は百三十万。それに比べ人口七千に満たない村に人口以上の観客が集まるほうが遥かに凄いのではなかろうか。