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「GK文化」が希薄な日本へやってきたカリスマGKコーチ

 そんなGKを育てる上で、ミレッ氏は挫折を経験します。ある日、選手たちの伸びが行き詰まっている事に気付いていた彼は、子供のGKから「もっとGKとして上手くなりたい」と相談を受けた際に、「お前は何も分かっていない」と怒ったような対応をしてしまったそうです。それ以来、彼はそのことが忘れられずに眠れない日々を過ごし、遂には3年間指導の現場を離れる事になります。

 その後、世界中に旅行しながら様々なGKコーチからトレーニング方法、メソッド、哲学を見学しながら学んだものの、どこの練習でも実際に行われていたのは同じトレーニングでした。それでも「自分は変わらないといけない」と挫折を経験して乗り越えたのが「GKを支えられるのはGKコーチだけ」という言葉。

 具体的にはコミュニケーションに注視する事で、モチベーションを刺激すること。湘南へやって来た頃は、「GKたちは下を向きながら練習場へやって来た」ようです。それが小さいなミスでも「すいません」と謝ってしまうような雰囲気だった頃から、“すいません禁止令”を経た現在では、「今日はどんな練習をするの?どんな意味があるの?」と練習前から積極的に意思疎通を行う環境へ変わったそうです。

GKの特徴に合わせた戦術練習 攻撃がFWなら、守備はGKが軸のはず

 GKとはチームに数人いても試合に出れるのは1人だけ。練習からその競争心は他ポジションとは比較にならない精神状態に追い込まれながらも、「GKチーム」として連携して充実したトレーニングを行えるような環境作りができる人間性が問われるポジションなのかもしれません。試合に出ても、ピッチで唯一手が使えてユニフォームも1人だけ違うGKは逃げられないのですから。

 だからこそ、得点パターンの構築など攻撃練習でFWを中心としてトレーニングするならば、守備練習ではGKの特徴によって戦術練習を構成すべきだと言えるのですが、これも日本を含めて世界的にフィールド選手が中心になっている事が多いともミレッ氏が述べていました。

 日本ではFWの特徴を中心にした攻撃練習や、GKの特徴から構築する守備戦術の練習よりも、攻守連動という意味合いでMF中心のトレーニング、考え方が定着しているのかもしれません。

 上記を僕は否定しているわけではありません。その方法論から優秀なMFが輩出されている日本サッカーの育成システムも世界に誇れるモノだと言えるからです。

 しかし、FWに入る選手によって攻撃パターンを変更する戦術・戦略はJリーグでも観られるものの、GKが変わった時にチーム戦術、とりわけ守り方が変わるようなチームは観た事がありません。「このGKでこの守り方はダメでしょう」な考え方はファン・サポーターでも何となく分かるのに・・。「彼がFWに入るんならこのパターンで」という考えと同様に捉えられていないのです。

 GKの特徴に合わせた戦術を組んでいないのだから、それで失点しても自分だけが失点の責任を感じる必要はない、という考えはそういう角度からも納得させられます。

 そういう全体トレーニングを組んでくれないチームでは仕事はしない、と述べているミレッ氏ですから、湘南はGKを組み込んだ戦術練習があるのでしょうね。

カリスマGKコーチが考える日本人GK

 スペインと言えば足下の技術やビルドアップ能力がDFやGKにも要求されるイメージが強いですが、ミレッ氏が徹底して追求するのは、基本的な手の出し方やクロスボールへの対応での足の出し方。1本1本確実に丁寧に指導して、技術面はもちろん、手の出し方や足の出し方について判断の成否を問うのです。

 しかし、ジャンプの距離を伸ばすために遠い足から踏み切るクロスステップ法を勧めるものの、日本人の骨格の特徴としては合わないのかもしれない、と最適解を探しながら現在も指導に従事しているようです。

 ミレッ氏が言う日本人のGKとしての利点は、「学習能力と、信じてやり抜く力」で、だからこそ日本を指導者人生の集大成に選んだそうです。逆にこの利点は欠点にもなると考えられ、「オーヴァ―ワークで疲弊し、心身ともにプレーに疲れてしまうかもしれない」とも指摘。だからこそ優秀なGKコーチが必要で、日本人GKの可能性に賭けてくれているミレッ氏は、今後の日本の育成において大きな存在となることでしょう。

 昨年のJ2を勝点100越えという圧倒的な成績で制した“湘南スタイル”に注目が集まる湘南ベルマーレですが、アカデミーから輩出されるGKも将来的には注目されるでしょう。もともと湘南ベルマーレは総合スポーツクラブですので、フットサルFリーグにも所属するチームが所有しているため、Fリーグのスター選手だったボラもアカデミーのコーチとして在籍させています。育成への投資を自らのクラブ内で循環させられるのもピッチ外の“湘南スタイル”として定着しているようです。

 まずサッカーファンとしては、「GKで勝った試合」という観方、「GKの特徴に合わせた守備」という観戦方法を身につけていくべきなのでしょうね。