5−1と圧勝したウズベキスタン戦だが、攻撃内容はそれほどよくない。監督が就任早々に攻撃面を劇的に変化させるのは無理な話であり、ハリルホジッチの指示に選手たちが戸惑うのは仕方が無い。5点の内訳を見ても、青山のスーパーゴールは50回打って1回入るか入らないかの代物であり、あれを狙い通りだったと考えるのはよくない。
柴崎の3点目は相手GKの明らかな判断ミスであり、4点目の宇佐美のドリブルシュートはワールドクラスの見事なものだったが、ウズベキスタンは疲れ切っていた。5点目の川又のヘディングも、彼の強さをアピールする材料にはなったものの、戦術に合致しているとは言い難い。
ウズベキスタン戦の5ゴールの中では、太田のクロスに頭で合わせた岡崎のゴールが唯一ハリルホジッチが狙いとするものだったのではないか。ボールを持った乾を太田が全速力で追い越したプレーは縦への速度も絶妙で、何よりハリルホジッチが気にかけているクロスの精度が見事だった。
ウズベキスタン戦の2点目のように、縦へのスピーディーな攻撃は相手にとって脅威だ。しかし、使い方を間違えれば自分たちの首を絞める事にもなる。縦へ縦へと意識を傾けすぎると、当然ボールをロストする確率も高くなる。そうなるとピンポンサッカーが展開される事となり、運動量が増えてしまう。
今の日本はまさにその典型例で、攻撃でもフルスロットルなら、ボールを失った後のファーストディフェンスもフルスロットル状態となっている。やはり縦にパスを入れるタイミングを考え、相手のブロックが整っている場面ではポゼッションを高める展開も必要なのではないだろうか。
ウズベキスタン戦でも無理に縦パスを選択し、逆に相手に速攻を許す場面が何度かあった。日本は決して最終ラインが強固とは呼べないので、そう何度も攻め込まれるのは危険だ。守備を整えている場合は構わないが、縦に急ぎすぎて速攻を喰らう展開は何としてでも避けねばならない。
そもそもザッケローニ政権では、日本の守備の欠点を補うためにポゼッションが確立された。攻撃が日本のストロングポイントだったのは事実だが、自分たちがボールを保持する事で相手に攻撃される回数を減らそうという狙いがあったのだ。
しかしハリルJAPANでは全く逆の事が起こっており、再びスタイルが大きく変わりつつある。私個人の意見としては、2010年から4年間積み上げてきたポゼッションも活かしつつ、ハリルホジッチが提唱するスピードある展開をバランスよく取り込んでいただきたい。
世界の強豪を相手にしてもポゼッションを高く保つ事が出来るのはザッケローニ政権時に証明されている。せっかくその能力があるのだから、それを全て捨ててスピード一辺倒のサッカーになるのはいかがなものか。もちろんスタイルの両立は容易い作業ではなく、柔軟性に欠ける日本人にとっては余計に難しい。
しかし、スタイルが1つしか無い状況でW杯を勝ち上がるのは至難の業だ。ザッケローニ政権では左サイドを軸とする攻撃を相手に読まれ、大会中にプランBを探す作業に負われるハメとなってしまった。こうした状況を打破するためにも、今まで築き上げたものも1つのベースと捉え、そこに新たな戦術をプラスしてもらいたい。
2014W杯後に遠藤や本田らが語っていたように、「日本の方向性は間違っていない」。大会では結果こそ出なかったものの、ザッケローニが植え付けたサッカーは日本人に合っていた。しかし今までのインタビューなどを聞いていると、ハリルホジッチは2014W杯での日本の戦い方を悪く捉えている節がある。
確かに猛暑などの影響も重なり、試合内容は良くなかった。しかし当時の戦い方を全否定するところからスタートしていては、何のためのザッケローニ体制だったのかが分からなくなってしまう。
ハリルホジッチ政権はまだ始まって1か月も経っていない訳で、攻撃の完成度ではザッケローニ政権時の方が明らかに上回っている。スタイルを変換するのは自由だが、得点力や崩しの質が落ちるようでは意味が無い。90分間でのチェンジ・オブ・ペースを身に付けるためにも、前政権のポゼッション路線も継続していただきたい。
では最後に、ハリルJAPANの攻撃のここを見ろ!と呼べるポイントを紹介する。縦パスのタイミングは適切か、縦に急ぎすぎていないか、崩しの質は高いか、今は勝っている状況なのかの4つだ。守備に比べると見極めるのが難しいかもしれないが、縦パスを受ける側の選手が苦しい態勢になっている場合は、縦パスのタイミングが適切でない可能性が高い。
つまりそれは縦に急ぎすぎている事にもなり、自分たちがリードしている展開では試合をコントロール出来ていないと考えて良い。縦に急ぎすぎている場合は自分たちのスタミナを無駄に消費し、攻守ともにフルスロットル状態が続いているという事だ。見る者が興奮するようなピンポンサッカーが続いている際には、「危ないな」と冷静に見極めていただきたい。
そして、2か月後にはW杯アジア予選がスタートする。アジアで抜きんでた力を持つ日本には、半ば勝って当たり前という空気が流れている。だからこそ、狙い通りの崩しから得点を奪えているかに注目してほしい。少なくとも青山のスーパーミドルや柴崎の超ロングシュートなどは何の参考にもならないという事だ。