チェルシーか?マインツか?
数あるオファーの中から武藤が選んだのは、同じ日本代表のFW岡崎慎司も所属するブンデスリーガのマインツだった。
チェルシーからのオファーが報じられたとき、日本中がまさかの事態にどよめいた。
日本代表でも数試合しか出場していない武藤に世界を代表するビッグクラブからの誘い・・・。どこかの飛ばし記事ではないのかと疑ったものだ。しかしそのオファーは真実で、しかも武藤は大胆にも断った。
ビッグクラブからの誘いに揺れ動いたという武藤だが、やはりチェルシーの方が良かったのか、それともマインツ移籍の方が良かったのか。
☆先駆者が教えてくれたこと
武藤は現在22歳で、この年齢でプロ2年目は世界的に見れば遅い。数日前のリーガ・エスパニョーラでは若干16歳のウーデゴーアがレアル・マドリーでデビューを飾り、最年少出場記録に世界が驚いた。そんなウーデゴーアと比べれば武藤は6つも歳上となり、若手と呼ばれる部類では無い。
それを考えれば22歳の今、チェルシーからのオファーは受けてもよかったのではないかとも感じる。今後同じようなチャンスが巡ってくるかは分からず、武藤がこのまま年齢を重ねれば重ねるほどビッグクラブは手を引く可能性だってある。
チェルシーに移籍したところでレンタルに出されるのは確実で、そこで短くとも1~2年は修業を積む事になる。修行先から本家に戻れない選手は後を絶たず、武藤の目には怪しい勧誘に映ったのかもしれない。
武藤の判断では、ビッグクラブといえども自身を即戦力として扱ってくれるのが前提で、海外に行ってベンチ生活を続けるのはあり得なかった。まだ日本代表に数試合しか出場していない現在でも、彼は代表に定着するために最適な判断を下したのだ。
数年前の日本人であれば、「人生に1度しかない挑戦」と銘打ってチェルシーへのオファーを受けたかもしれない。何よりビッグクラブでプレー出来る選手など日本人にはほとんどおらず、まさに自分が特別な選手として名指しされる気分だ。
しかし今は違う。インテルの長友、ミランの本田、ユナイテッドの香川といった先駆者がいる。彼らはビッグクラブの重圧、選手層の厚みなど、あらゆる難問とぶつかってきた。それを見てきたからこそ、武藤は冷静な判断を下せたのだ。
先駆者は皆ザックJAPANの主力だったが、長友を除く2名は思うような結果が残せない日々が続いた。香川はほとんど出場機会が無く、本田もミランの10番として何1つ結果を残せない。彼らは日本のエースでも、世界ではエースでは無かった。
そして迎えた2014ブラジルワールドカップでは大きくコンディションを落とし、香川にいたってはグループリーグ第2戦のギリシャ戦でベンチスタートを言い渡されている。つまり彼らは人生最大の挑戦に失敗したのだ。