欧州蹴球文化探訪 第四十の巻 ロシアとオランダを経由してトルコで再会したチェコ人とハンガリー人

 今季ブルサシュポルに集結した細貝萌のチームメートは意外に日本人と縁がある。本文大盛りなので前置きはこれだけにして第四十巻突入。

エールディビジとリーグアンに魅かれる理由

 感興の赴くままにキーボード上指を走らせるこのコラムを担当する以前から、質問されて困る第一位は、

「何処の国のサッカーが面白いですか」

 これは「何処の国のビールが美味しいですか」以上に難題である。ビールに関してはエールだろうがピルスナーだろうが、喉が渇いていると何でもうまい。気の合う仲間と一緒に飲んだり、フットボールを観戦しながら飲むビールは何だってうまい・・・といういい加減な答え。問題なのはフットボールに限らず、面白いですかという質問。味覚はさほど個人差はない気がするとして、「面白い」のツボは、予備知識や体験によって異なるため、必ずしも筆者の面白いものを同様に面白いと感じてもらえるとは思えない。この巻の伏線として第三十三巻で欧州ともフットボールとも関係性のないTVドラマ「表参道高校合唱部!」を取り上げておいた。このドラマを不特定多数の方に面白いですよと推薦できるのは、筆者に届く前にUEFAコンペティション予選に劣らぬ辛口TVドラマ評論家の友人の篩にかかった作品しか見ないから。

 前置きが長くなったが「何処の国のサッカーが面白いか」という質問の答えとして適切ではないが欧州は(何処の国でも良いが)カップ戦の決勝が間違いなく面白い。

 「何処の国(国内リーグ)が好きですか」であれば答えは明確である。
 
 好きなのはオランダ(エールディビジ)と前巻でふれたフランス(リーグアン)。近年誘引されるのはこの両国に挟まれているベルギー。その他国は実力レベルと興味度がほぼ比例しているだろうか。
 何故この二国かという理由は、アヤックス好き、オランダの攻撃的サッカー好き、ヨハン・クライフ好き、水と油だけど実は似たもん同士のファン・ハールも半分好き・・・のオランダ。同様にオランダが好きだからこそ、その対極にある守備重視のフランス・リーグアンも面白いと思える。矛盾しているようだが、モデル体型のスレンダーな女性とつきあっていながら巨乳の女性と浮気をしてしまった男性なら共感していただけるだろうか。勿論同じリーグだから必ずしも全てのクラブが同じスタイルとは限らない。アザールがプレーしていた頃のリールOSCなどは明らかに攻撃よりの異質なフットボールで浮いていた。
 但し攻撃的なオランダと守備的なフランスに共通しているのは“ステップボード”の役割。北欧、東欧出身のプレーヤーが英西独伊の四大メジャーへと飛躍する中継地がオランダであり、アフリカから欧州への登竜門がフランスだ。

 瀬戸貴幸に続き、細貝萌のブルサシュポル移籍が決まった。今季はファン・ペルシーやエトーの移籍で活気づくシュペルリグ。守備的MFの細貝、サイドにイサーク・クエンカ、ターゲットマンのトマーシュ・ネツィド、そして2(1.5)列目には、ハンガリー代表の主将ジュジャーク・バラージュを獲得したブルサ。細貝以外にも実力者を揃え効果的な補強のはずが開幕三連敗。9月12日4節で初勝利、9月20日強豪フェネルバフチェ戦は真価を問われる一戦。ネツィドのゴールで一度は同点に追いつくも試合を決めたのは千両役者のファン・ペルシー。細貝もジュジャークもスタメンで起用されている。

ブダペストでの「俺はお前を知っている。でも名前が出てこない」

 2013年ハンガリーのブダペスト郊外、ネムゼティ・バイノクシャーグ12-13最終節。デブレツェニVSCをホーム、シュタディオン・ヒデクチ・ナーンドルにて迎え撃ったMTKブダペスト。スタンドで観戦する男性がサングラスを外した。「あ、コイツ知ってる。ええ・・・・と」しかし名前が浮かばない。

 歳月は遡り2008年。北京五輪出場を前に本田圭佑が名古屋グランパスからVVVに移籍。記者発表当日のPSV戦いきなり後半から出場した。格下VVVが健闘を見せ1-1のドロー。まだ黒い長めの頭髪、明日を見る瞳に夢と野望を滾らせた本田圭佑21歳の冬。
 この試合PSVで同点ゴールを決めた22歳のハンガリー人は、本田より一週間先輩。
 前週のフェイエノールト戦でエールディビジデビューしたばかりながら、デブレツェニ時代にはリーグMVPを獲得しておりハンガリーが輩出した近年稀に見る逸材らしい。「要注意」と頭にインプットするとその予感は8か月後に的中した。
 2009年8月15日マルティン・ヨルを新監督に迎えたアヤックスのホームゲーム。アレナには同じく覇権奪回を目論むPSVが乗り込んだ。3-4でホームチーム敗れる。この日2ゴール1アシストと爆発したハンガリー人MFの名前をこの時点ではスラスラと言えた。

 2011-12シーズン PSVからアンジに半年在籍後ディナモ・モスクワへ。オランダ発ロシア首都行きの同じルートを歩み、2012年3月9日のプレーオフ。本田圭佑とジュジャークは3月とは思えぬ厳寒のピッチで再開した。結果は1-1ドロー。

 4月21日は長身FWトマーシュ・ネツィドと本田がスタメンに名を連ねながらディナモに1-0で敗れている。この日は三人ともフル出場。シーズンは移り変り9月30日CSKAのホームゲームでは、ツートップに入ったジュジャークの先制ゴールでまたしてもディナモ勝利。この時点でもジュジャークの名前を憶えていた・・・気がする。
頭髪以外でも白いものが見え始め、もはや昨日の晩御飯メニューが思いだせない筆者47歳の春。
 
 2010年3月16日CSKAモスクワに移籍した本田圭佑がUEFAチャンピオンズリーグ決勝トーナメントでセヴィージャと対戦。決勝点は本田の左足。変化にキーパーが対応できず跳ね返ったボールはゴールネット天井に突き刺さったスーパーFK。この試合の先制点は左からのスローインを本田が繋いでトマーシュ・ネツィドが決めている。その前にもチェコ代表FWのキープから、飛び出した本田がシュートを撃つ好機を二人のコンビネーションで演出していたのは記憶に深く刻まれている。