国立競技場で寝そべるプラティニは洒落ていた。今寝そべったらトドかアザラシ・・・。しかしユヴェントスの復権にはシャンパンで乾杯しようではないか
通貨統合がもたらした独強伊弱
ベルリンでの頂上決戦を、パリのレストランに設置されたモニターで眺めていた。モスクワ・シェルメチボ空港ターミナルのモニターにも翌週ビッグイヤーを抱えるシャビとイニエスタの姿が映し出されていた。
第二次大戦の終戦から節目の70年。ロシア国内はナチスの侵略を退けた戦勝を祝し栄華を迎える。
飛車角落ちとはいえバイエルンを横綱相撲で葬ったバルサと相対したのは、白い巨人の連覇を阻んだユヴェントス。大規模な八百長事件の降格騒動を挟み12年ぶりに栄光のピッチを踏みしめたビアンコネーリは、昨年までの国内を圧倒しながら欧州の舞台では低迷する内弁慶癖を払拭したようだ。スペインの二強はともかく、独国王者の手に入らなかったファイナルの切符には大きな価値がある。近年日本人プレーヤーの移籍が相次ぎ、昨年は代表チームがW杯優勝。安定した観客動員数に健全なクラブ経営・・・メディアは70年前の敗戦国=同盟国から届く明るい話題と情報ばかりを取り上げるが、偏に好景気を維持するドイツ経済の恩恵に他ならない。2014-15シーズンの開幕とほぼ時を同じくして、独財務相が新規国債の発行停止、つまり46年ぶりの「無借金」を高らかに宣言したのには世界が驚き、そして羨んだ。緊縮財政主義と徹底した競争主義から輸出高を伸ばす製造業が経済成長を支えることは言わずもがな。大手自動車メーカー、フォルクスワーゲン社の資金提供に見合うだけの躍進を遂げたヴォルフスブルグは一躍象徴的なクラブとなった。
一方、世界的な金融危機からいまだ回復できないのがもうひとつのかつての同盟国。イタリアの経済規模は縮小する一方で今シーズン開幕当初の失業率は、12%を越えておりその数字はドイツの約倍。’96年のボスマン判定によって、大国と中堅・弱小国のリーグ格差が急激に広がりを見せた欧州蹴球界。
それから三年後の通貨統合は、為替相場を切り上げずに済んだ独と、足並みを揃え財政を緊縮したことが仇になった伊に明暗のコントラストを描き出した。景気と歩調をあわせるようにミシェル・プラティニやマラドーナが眩い輝きを放った世界最強リーグの威信は失墜したのである。
ミラノとトリノ。 北イタリアの二大都市は経済・フットボールの両面で起爆剤と成り得るのか?
シーズン序盤、5年ぶりに訪問したイタリア。サンシーロの当日券売り場はおよそ10分の待ち時間で購入できる程度の行列、駅到着が遅れたヴェローナも大して変わりはしない。ユヴェントス(トリノ市)を除く伊国スタジアムの多くが陸上トラックに囲まれたピッチ。スタンドに空席がやたら目立つが、収容人員数だけは国立競技場と同規模~7万人程度の公共施設なのだからいたし方ない。TV中継時キックオフ前の見栄えがプレミアやブンデスリーガに劣る環境はもはや否定のしようがない。
しかしピッチ上に目を向けると球際の攻防、当たりの激しさからは、現代サッカーのトップレベルの熱気が伝わってくる。様々な国籍の指揮官達からも、多彩な戦術の片鱗が垣間見える。
確かに日本人選手二人が所属するミラノ勢は不本意な成績でシーズンを終えている。
それでもナポリ、サンプドリア、更にキエーボですら、筆者の眼前にて繰り広げられる攻防のクォリティは、ブンデスと比べてもなんら見劣りはしていない。
後日、ヴォルフスブルグを下したナポリ、香川真司を俯かせたユヴェントス、ヴィオラも含め二つのUEFA主催コンペティションのベスト4に、伊国の三クラブの名前とエンブレムが印刷された紙面からは、感慨深さが込み上げてきた。
先月伊政府が「100億ユーロの経済効果」を掲げ、景気回復の起爆剤と目論むミラノ万博が開幕した。予想来場者は2000万人。万博が幕を閉じても世界の視線がミラノに集まるのは間違いない。2016年の決勝の舞台となるサンシーロに向けてチャンピオンズリーグの予選は既に始まっている。去就が注目されている長友佑都だが、欧州の最高水準の舞台に立てずとも、イタリアに留まる選択もそれはそれで、悪くはないのかもしれない。