欧州蹴球文化探訪 第二十五の巻 ヘルシンキのターゲットとシャドー

サッカー現代用語に限らず「何かおかしくない?」と思うことも日常茶飯事。
ウィーンからニューヨーク、ヘルシンキと脳内での回想録は北半球を一周して現実の東京に。それにしても日本ってこんな暑い国だったのか?

名門対決・・・決着に喪神

 7月30日チャンピオンズリーグ(CL)予選三回戦。

 待ちに待ったアヤックス・アムステルダムの2015-16シーズンが開戦。しかも会場は20年前にビックイヤーを掲げた聖地エルンスト・ハッペル。このスタジアムは柱を観るだけでも価値がある。かつて繁栄を極めたオーストリア・ハンガリー帝国の首都は過去4回、欧州の頂を決める場としての指名をUEFAから受けている。

 今は無き旧国立競技場に聖火が点った東京五輪の半年前、インテルがレアルを破り栄冠を勝ち取ったのを皮切りに、第三の巻でも軽くふれたポルトーバイエルン戦。その僅か三年後の90年にはACミランがベンフィカを破って連覇の偉業を達成したのがこのスタジアムだった。
 パトリック・クラフェルトの決勝ゴールで95年ACミラン王朝に革命の火の手を上げたアヤックス。旧東京国立競技場でもグレミオを破りトヨタ杯を掲げた回想録は止まらなくなるのでここでは書かない。

 この日アヤックスと対戦したラピド・ウィーンも言わずと知れた名門。ACミラン、レアルの名前も先にあげたが、この2大クラブに第十七の巻に登場したユーゴスラビア(当時)のパルチザン・ベオグラード、アンデルレヒト(ベルギー)、スポルティングCP(ポルトガル)、MTKブダペスト(ハンガリー)、ユールゴーデン(スウェーデン)など筆者が敬意と好意を抱くクラブは、1955-56年の第一回チャンピオンズカップに出場し現在まで紆余曲折の歴史を重ね現存するクラブチーム。
 ちなみにオランダからはPSVアイントホーフェンが出場して予選でラピドに敗れているため、敬意も好意もない唯一の例外となる。

歴代No.10の強烈なインパクト

 試合は予想に反して(?)アウェーのアヤックスが前半で二得点。決めたのはダフィ・クラーセン。
 彼が17歳の時から成長を精察している。古くはデニス・ベルカンプから、リトマネン、ファン・デル・ファールト、スナイデル、シーム・デ・ヨングへと受け継がれた『10』の系譜。

 アヤックスにおける10はポジションと役割の両方を表しオランダの合理主義が垣間見える。前任者のデンマーク代表クリスティアン・エリクセンも含めシュートコントロールの正確さと「キック」精度の高さを売りにするスナイデルなど、チャンスクリエーター歴々と比較した場合、クラーセンのプレーは、ベルカンプのトラップの巧さやリトマネンの判断の速さなどOBから多様性のDNAを受け継いでいる。瞬間的なポジショニングとスペースを見つける“目“のつけどころに非凡な才能を感じ、俗に言う「得点の嗅覚」に秀でたタイプ。
 シーム・デ・ヨングはCF=11と10を兼任できるのが持ち味ならば、純粋な10の適正においてはクラーセンが上だろう。昨季傷病に悩まされたシームは、まずは万全の体調でシーズンに入ることが重要。

 8月4日アレナではホームチームが前半2失点しながら後半追いつく展開が繰り返された。こうなると超満員の観客が発する狂熱は常軌を逸するアレナ。しかし信じられない結末を迎えた。
 キャプテンマークをつけたクラーセンも茫然。それでもアムステルダムから久しぶりに誕生した10番らしいオランダ人のプレーにスタンドから目を光らせたダニー・ブリントは、代表チームでも活躍の場を与えることを確信する。
 抽選の結果ELプレーオフの相手はチェコのヤブロネツ。一方ラピドはシャフタール戦に臨む。

 歴代随一の存在となれば筆者にとってはヤリ・リトマネンだろう。フィンランドからなぜこのような不世出の傑物が輩出されたのかは理解できないが。

 リトマネンの古巣HJKヘルシンキ。7月29日CL予選三回戦1stレグは、ホームでのアスタナ戦をスコアレスドロー。8月5日2nd レグの結果ヨーロッパリーグへと引っ越すが相手はロシアの強豪クラスノダール、日本人コンビの活躍に期待する。

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