ぷら~り欧州蹴球場百景【79】BSFZアレーナ / マリア・エンツェルスドルフ

開催中のアジア杯。日本代表の9番を背負う南野拓実が24歳の誕生日を迎えた。欧州に渡ってから既に四年年の歳月が流れた。2018年11月11日、ウィーン·ゼネラリ·アレーナでのアウストリア·ウィーン対レッドブルザルツブルグ(RBZ)の試合は前半の天王山となるはずだった。ところが今季のアウストリアは中位に甘んじる不振。この試合も首位の赤牛が敵地で完勝。途中出場ながらロスタイムにゴールを決めた南野の名前が紙面から確認できる。


◆◆◆◆◆

そして写真で短髪の背番号14クリストフ・モンシャインが何やら興奮している様子。この試合アウストリアは4-3-3の布陣。右ウィングにはマクシミリアン·サックス。1トップのモンシャインの後ろにトーマス·エブナー。
同日ラピドは、敵地でウォルフスバーガーに敗れる。スコアは3-1、トップ下のクリストフ・クナスミュルナーも残り8分でベンチに退いた。現在5位のアウストリアはまだマシ、ラピドは8位に低迷している。


◆◆◆◆◆

結果今季のオーストリア・ブンデスリーガは、資金力で他を圧倒するレッドブル・ザルツブルグが独走する味気ないものになってしまった。
それでも近年オーストリアの一部レベルは安定した水準が保たれている。理由として2004年から採用した同国オリジナルのテレビ放映権収益分配システムの効果が大きい。ベンチに入る外国人選手は6人以下に抑え、22歳以下のオーストリア人を多く入れると分配金が増える仕組み。

◆◆◆◆◆

第79景はFCアドミラ・ヴァッカー・メードリングの本拠地BSFZアレーナ。
ウィーンから南方向へ約10キロメートル行くとマリア・エンツェルスドルフ駅。スタジアムまではホームで撮影した写真に照明塔が写る程の距離。

◆◆◆◆◆

アドミラにはウィーンの2大クラブから契約できず行き場を失った若手や出場機会に恵まれないプレーヤーが移籍してくる。そんな事情を知っていると興味深いカード。2017年4月5日、カップ戦の準々決勝は、スタンドの9割が空席(5万人規模のエルンスト・ヘッペルに5千人)でもファインダーをのぞき込むと胸は高鳴る。


◆◆◆◆◆

ASKエブライヒスドルフからアドミラへ2015-16シーズンに移籍した無名のストライカーは14節からの四試合連続得点で不動のスタメンに定着。試合前のアップからも気合が伝わってくる。


◆◆◆◆◆

クリストフ・クナスミュルナーはアウストリアの下部組織で育ち2008年の夏バイエルンミュンヘンのU17に移籍した。(欧州内での国外移籍が解禁は16歳)。2011-11シーズンはインテルのプリマヴェーラ、再びドイツに戻り、インゴルシュタットから2014年に母国のアドミラへ。期待が大きかっただけに寂しい凱旋となった。


◆◆◆◆◆

しかしこの日は切れ味抜群。正直この日のプレーだけを見れば四大リーグでも通用するだろうし、代表入りしてもおかしくないのではと感じた。すると半年後 アラバ、ハルニク、サビッツァの体調不良が重なり、本当にマルセル・コラー代表監督からお声が掛かった。《前頁写真右端8番がクナスミュルナー》

<

◆◆◆◆◆

アウストリア相手に開始5分いきなり先制点を決めたのはクナスミュルナー。その8分後、今度はモンシャインの左足から貴重な追加点。アシストはクナスミュルナー。その後アウストリアの反撃を一点に抑え、アドミラがベスト4進出。この試合サックスは負傷で欠場していた。


◆◆◆◆◆

2016年2月7日(21節)BSFZアレーナで南野拓実と同じピッチに立ったモンシャイン。この試合が彼にとってはブンデスリーガデビュー戦。

1992年に生まれた二人のクリストフ。10代の頃から常に代表に選出されてきたエリートのクナスミュルナーに対して雑草の如く逞しいモンシャン。この試合でもクナスミュルナーは先制点をアシストしているのだが、フル出場したトーマス·エブナーも同年齢。


◆◆◆◆◆

エブナーは10歳、同じく1992年生まれのサックスも12歳の頃からアドミラのアカデミーで純粋培養されたクラブの顔。そういえばサックスはこの試合も負傷で欠場していたのか。

◆◆◆◆◆

2015-16シーズンを4位で終えたアドミラはUEFAヨーロッパリーグの出場権を獲得。シュトルム·グラーツを含む4強を崩して割り込めばこの国では快挙である。


◆◆◆◆◆

オーストリアのビールは第二景でななせさんに飲んでもらったゲッサーが代表格。

下の写真ではゲッサーを挟んで景に登場したヴィーゼルブルグと世界最古といわれる隣国ドイツのヴァイエンシュテファナー。

◆◆◆◆◆

欧州の中央に位置するだけあって、量販店にいくと英国、イタリア、トルコなど、ドイツだけでなく他国の品揃えも豊富。もちろんオーストリア銘柄がリーズナブルだが、同国No1の人気を誇るゲッサーよりも低価格が結構あるのは意外。

久留実さんと生を飲んでみたが、こくと苦味、香りも含めバランスの良い味に仕上がっている。ビール王決定戦のオーストリア代表はゲッサーで良いだろう。

◆◆◆◆◆

2017年長いウィンターブレークが明けると、2月11日ホームのアルタッハ戦は▲。続く22節はラピド相手にアウェーでドロー。23節リート戦は同年初勝利、この試合からサックスを右サイドに入れた4-2-3-1が固定された。

◆◆◆◆◆

24節ウォルフスバーガー▲。3月11日の25節レッドブルグ·ザルツブルグ戦もドローで勝ち切れないが強敵相手にも負けなし。調子を徐々にあげると3月18日26節はBSFZアリーナでのシュトルム·グラーツ戦、モンシャインのゴールで1-0勝利。そして4月1日は試合途中サックスが負傷退場したものの勝利を収める。4日前のリーグ戦に続き、同会場での同一カード、ウィーンの強豪からの連勝は未来まで語り継がれるであろう。しかし進撃はここまで。後半はやや息切れして6位でのフィニッシュ。


◆◆◆◆◆

シーズン終了後、モンシャインをアウストリアへ、クナスミュルナーも1月に英国へと離脱した状況で順位をひとつあげた昨季の大健闘は賞賛に値する。
迎えた今季(2018-19)はエブナーとサックスも紫のウェアに。クナスミュルナーも僅か半年でUターン。ラピドで28番と重い番号を背負っている。

◆◆◆◆◆

アドミラのように資金力に劣るクラブがトップリーグにしがみつくには分配金は喉から手が出る程欲しい。しかし、それにばかり目がくらみ、主力が国内の若手選手に偏り過ぎると降格の危機に晒される。
それでも12月8日のBSFZアレーナでのRBZ戦は2-2のドロー。分配金からの収益を減らしてでも獲得した外国人デンマークU20代表の19歳モルテン·ジェルマンド、18歳ナイジェリアとの二重国籍エマニュエル·アイウもスタメンで出場している。対戦した彼らからすれば南野はもはや大ベテランだ。

◆◆◆◆◆

さて放映権収益分配に現状のシステムを導入して15年、分配金も視野に入れ同胞主体のチームづくりを進めたウィーンの2大クラブと外国人選抜路線のRBZの差は大きく開いている。有望な若手はドイツやプレミアがさらっていくから打つ手なしか。南野も日本代表の9番を背負うからには、この国から巣立ち次のステップへと踏み出すべき時ではあるが、門は月末に閉められる。果たしてオファーは提示されるのか。

そしてアドミラは、ウィンターブレーク前18節を消化し首位のレッドブルから37ポイント差をつけられての最下位。この先にはあまりにも厳しく熾烈な残留争いの棘道が待ち受けている。【七十九景了】

文/撮影:横澤悦孝 モデル:久留実《Culumi》