ロシアのゼニトに敗れオランダのPSVが姿を消したヨーロッパリーグから半年、オランダのチューリップがロシアから消えるかもしれない。10年後、最も成長が予測されるカザフスタンの国内リーグとあわせて第三十七の巻
未だ見ぬ強豪はカザフスタンの首都アスタナ
UEFAチャンピオンズリーグ(CL) 本戦出場32クラブによるグループステージ(GS)熱戦の幕開け。メスタージャでの熱闘を制したのはゼニト・サンクトペテルブルグ。現在は幾分沈静化したウクライナやギリシャの関係を上げるまでもなくEU対ロシアの構図が強まる中、ロシア勢の“悪役”ぶりに今季も筆者は焦心に駆られる。グループステージ抽選前のポット分け。覇者バルセロナが国内王者でもあるため、エールディビジ王者PSVが第一ポットに組み込まれた。とりあえず昨年ヨーロッパリーグ(EL)で対戦したPSVとゼニトの再戦は回避されたが、CSKAモスクワと同じグループBに。
[マッチデープログラム プロゼニト]
波乱が続き極上のエンターテイメントが各地で繰り広げられたプレーオフラウンド。緑と白がチームカラーのスポルティングCPとセルティック。名門2クラブは共に初戦のアドバンテージを活かせずCSKAモスクワとマルメに逆転を食らわされた。アウェーゴール差で東欧対決を制したのはベラルーシのBATEボリソフ。パルチザンは第十七の巻で取り上げた肩入れが肩透かしに終わった。バーゼルを破ったマッカビ・テルアビブも久しぶりの大舞台。9月17日のGS第一節二日目、BATEはレバークーゼン、マッカビはチェルシーに敗れておりヨーロッパリーグ=3位が現実的な目標となる。
それにしても驚きは、イスラエルと同じく元アジア圏のカザフスタンから史上初の本戦出場を果たしたアスタナ。過去プレーオフ無敗のAPOELニコシアを下しての進出は天晴。第十五の巻でカイラト・アルマトイを取り上げた際、CLは敷居が高過ぎるとアスタナには見切りをつけていたので仰天そして脱帽。主力は守護神にセルビア生まれのカザフスタン代表ネナド・エリッチ。センターバックはボスニアヘルツェゴビナ人のアニチッチとロシア人のポストニコフ。右サイドバックは今シーズンパルチザンから獲得したイリッチ(スロベニア)。中盤にコロンビア人のカニャス 冬の移籍市場で獲得したセルビアU21代表ネマニャ・マクシモビッチ。ワントップのストライカーは代表でもクラブでもキャプテンマークをつけるヌセルバイェフといった面子。
初戦1-0勝利で敵地に乗り込んだアスタナ。60分アポエルはヴィスワ・クラクフから移籍したセミル・シュティリッチ(ボスニアヘルツェゴビナ)のフリーキックで状況を五分五分に戻す。こうなるとホームチーム有利かと思われたのだがストイロフ監督はヌセルバイェフに代えて新戦力のコンゴ代表ジュニオール・カバナンガをピッチに。この長身FWは21歳の時にベルギーの名門アンデルレヒトに発掘され5シーズンをジュピラーで過ごした。昨シーズン、サークルブルージュ在籍時撮影した写真はぶれぶれでお恥ずかしいがスピードと臨場感は伝わるはず。
ツルヴェナ・ズヴェズダを破ったことでアルマトイに注目したが、この試合でも、84分ジョルチエフのアシストで激的な決勝ゴールを決めたマクシモビッチやエリッチはセルビア生まれ。また旧ユーゴスラビアからの分裂国出身選手が目についた。ユーゴスラビアといえばベオグラード大学の体育学科に始まり、90年代半ば新ユーゴ(現セルビア)の協会によるコーチングスクール創立を経て現在に至る人材育成のノウハウと手腕は本家オランダも舌を巻くほど。(イビチャ・オシム氏によるとユーゴの育成方法はオランダからの影響が大きいとのこと)
カザフスタン国内リーグの活性化の可能性
オランダーカザフスタン戦をスタンドから観戦後知ったのは、オランダがカザフスタンへの最大投資国であり、それも全体の4割近い巨額らしい。ウランやレアアースなど豊かな鉱物資源が国土面積世界9位(日本の7倍)に眠っている。一方人口は1/7なので覚えやすい1600万人。旧首都アルマトイが140万、現首都のアスタナが半分の70万人。経済の中心は以前アルマトイのままだが、1997年南部に遷都した理由はロシア人の占める割合が多い北部における独立運動抑止が目的。政府が近年重視しているのは点在する経済特区政策。外資系企業の投資導入と21世紀に入ってからのエネルギー価格高騰を背景とする目覚ましい発展は90年代を知る者からすると、ちょっとした浦島太郎状態。1999年からの先駆社「トヨタ自動車」、フランスの「プジョー」、韓国の「現代」といった自動車産業。家電系ならば「LG 電子」や「東芝」も。その東芝が同国の国営原子力会社と原子炉を開発し2020年代に原発を立ち上げるという。ウランの生産量世界第 1 位、埋蔵量でも豪州に次ぐ第 2 位の同国。東北東日本大震災発生の2011 年以前からプロジェクトの準備が進んでいた。アスタナは2017年に万博招致に成功。テーマは次世代エネルギー。同国の原発推進政策になんらかの影響を及ぼすかもしれない。
ポーランドのエネルギー問題でもふれたがEU諸国は、エネルギー調達において、ロシアへの依存過多を懸念しており、分散させることで“脱ロシア”化を図りたい。それがカザフスタンに投資する大きな理由であり、カザフスタンもEU諸国との関係を強化してきた。主要油田の開発や石油パイプラインの建設に前述のオランダをはじめ各国が積極的に投資している。そう考えると西欧諸国との関係から今後フットボールの国内リーグが発展する可能性が最も高いのがカザフスタンだと予想する。
そのカザフスタン投資のEU急先鋒オランダといえば古くは日本の出島との関係や東インド会社によるアジア航路確保など、欧州他国とは異なる独自の貿易政策の歴史を重ねてきた。フィリップスに代表される機械製品や乳製品、調整食料品、なかでもUEFAチャンピオンズリーグのオフィシャルスポンサー「ハイネケン」社のビールなどロシアにおいても人気商品が輸出されており、大切なお客様だった。しかし両国の友好な関係に亀裂が生じた。