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欧州蹴球文化探訪 ベルギーの光と闇 第二十一話 ライバル達の後ろ楯

 バルサがアトレティコに敗れても波乱と形容すべきなのか首を傾げるチャンピオンズリーグ。二年ぶりに欧州最高峰の舞台でマドリード・ダービーが実現する。前回モスクワで購入した«Футбол»を書棚から引っ張り出した誌面の写真。

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 一方ヨーロッパリーグ。三連覇に挑むセビージャとビジャ・レアル、そしてリヴァプールに、今季もウクライナのシャフタールが四強の一角に食い込んだ。

 昨季の地域分布図はイタリア2、スペイン1の南欧ラテン勢と同数を旧ソ連のロシア1、ウクライナ2。残る二つの椅子をドイツとベルギーで分け合った。前回昨年ボスマン判決から20年で原稿を結んだが、終戦70周年。サンクトペテルブルグは戦勝記念で盛り上がりを見せていた。サンクトペテルブルグは対戦時ナチスに包囲され、過酷な籠城を強いられ多くの犠牲者を出した街。

 メイン・スポンサーである大手自動車メーカーフォルクスワーゲン社のエンブレムが印されたユニフォーム。ヴォルフスブルグは、ドイツで二番目に潤沢な資金を保有するクラブ。ナチス政権の国策企業として設立され社名がドイツ語で「国民車」と名付けられた企業は哀しい負の遺産《歴史》を背負う。1937年準備会社が創立。民需車両を生産していたが軍事産業の主軸を担った。
 1939年9月開戦により、同社の生産ラインは軍需へと移行する。ポーランドをはじめ、ウクライナやロシアからの敵国捕虜に労働を強制。アウシュヴィッツの収容者を働かせて過労死させた記録も残されている。終戦後は英国の管理の下、現在の企業体系へと移行し発展、現在に至る。
 仮にヴォルフスブルグとゼニトがワルシャワで対戦していれば、それはそれで終戦70周年を象徴するうえでも意義深いものになっていたはず。UEFAコンペティションに参加する各国クラブの大半が戦前に創立されており、ディナモ・キエフの選手達は実際にナチス空軍と対戦している。ナチスに強要された「負け」を拒み、名誉ある死を覚悟してフットボールの試合に勝利した史実を、映画「勝利への脱出」監督ジョン・ヒューストン/主演シルベスタ・スタローン1981年制作ではハッピーエンドの脚本に書き換えた。

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 映画といえばSSCナポリとフィオレンティーナ。ベスト8で同国のローマとフィオレンティーナが対戦。前話でふれたとおり90年ビオラが後一歩で手の届かなかったトロフィー。直後バッジョ売却で追放された前オーナーに代わり映画王チェッキゴーリは、かつてメディチ家が繁栄させた《芸術の都》のクラブを買い取る。二代目の離婚慰謝料騒動で破綻するが、デッラ・ヴァッレ家の後ろ盾で復興した。シューズ、バック等、革製品の高級ファッションブランド、TOD’Sグループ。経営者のアンドレアとディエゴの兄弟といえば、ローマ観光の名所、円形闘技場「コロッセオ」の保護・修復の予算2500万ユーロ(約28億円)を負担した太っ腹。

 一方マラドーナが掲げて以来の欧州タイトルを狙うナポリは映画プロデューサーのアウレリオ・デ・ラウレンティスの支援で今や年間売上番付において欧州ベスト20の常連に名を連ねる。2004年ラウレンティスが買い取りに要した金額は3300万ユーロ(約56億円)。

 当時の8チームのUEFAクラブランキングは、以下の通り最上位は21位のゼニト。
準々決勝で対戦したセビージャが23位なのでどちらが勝利しても番狂わせにはならない。
25位のディナモキエフもほぼ同格。少々下がって31位のナポリ。フィオレンティーナ45位と続く。そしてヴォルフスブルグとクラブ・ブルージュが順位を落とした結果、68位、69位、70位のドニプロまで三者連番の順位表になっていた。最も低いドニプロがファイナリストに。

 この八強では最も日本でなじみの薄いクラブがドニプロ・ドニエプロペトフスク。クリミア半島のロシア再領有が、ウクライナ他地域にも飛び火して独立を叫ぶ内戦状態に。およそ一年で停戦も多くの民間人が犠牲者となった。

 このドニプロのオーナーが同国新興財閥の大物、イゴル・コロモイスキーである。大統領から州知事に任命されているがスイス在住。ウクライナとイスラエル両国の国籍を有するガチガチのユダヤ人。こちらもヴォルフスブルグとの対戦を想像すると背筋が寒い。

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 ドニプロは本大会参加都市では最東端に位置したが、このオーナー、知事就任後ロシアとの国境に壁と有刺鉄線網、更には濠までこさえると宣言した。「真田丸」でも「進撃の巨人」でもない事実。コロモイスキーが所有しているのは高級外車など可愛らしいモノではなく戦車。鉄鋼金属・エネルギー・金融などの企業に加え軍隊まで所有するのは笑えない。
 
 今春から日本国内でも一般家庭向けの電力が自由化されるが、電力は地球規模で各国の最重要課題。このコロモイスキーとディナモキエフのオーナー、イーホル・スルスキが利権を奪い合った《ウクライナ電力三国志》の時代がある。2010年以降は地域ごろに分割し各州電力会社の所有権はフリホリシンを含む三社で分け合った。今日、ウクライナで電力といえばスルスキ兄弟、ガスはコロモイスキーが幅を利かせているらしい。

 ゼニトのゼネラル・スポンサーは言わずと知れた国営独占企業「ガスプロム」。ゼニトに限らずロシア・ブレミアリーグをパートナー企業として支援している。このガスプロムとアブラモビッチの繋がりに関しては誰もが《蓋》をする。UEFAのオフィシャルスポンサー企業として青少年交流プログラムに取り組むガスプロムをつついたところで誰の得にもならない。

 さて八強の後ろ盾、前回のセビージャに続き、6チームを紹介したが、このコラムの主役であるベルギーの看板を背負うクラブ・ブルージュは省略する。実はこのドニプロとブルージュの準々決勝、どちらが勝つかではなく、どちらに勝ってほしいいか願望を問われれば、「・・・ドニプロ」と答えていた。
理由は至って単純明快。ブルージュを含め、ベルギーの都市ならばドイツ、オランダ、フランスでの仕事があれば気軽に立ち寄れるが、ウクライナの東端は過去にも未来にも行く機会は、まずない。ウクライナのクラブチームを見る機会はUEFAのコンペティションに限られる。

By | 2016-05-25T22:28:04+00:00 5月 19th, 2016|Categories: コラム, その他コラム|Tags: |0 Comments

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Y.Yokozawa
1964年生 / 東京都在住 / Xイチ独身 自称サッカルチャー欧州特派員。プレス席申請の際に 媒体名は「soccerlture.com」と記入するようにしてます。

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