4年前のシンデレラ・ガールから脱皮~国内リーグ得点王&2度のMVPを経ての海外移籍

 4年前の女子W杯ドイツ大会・準決勝のスウェーデン戦。準々決勝のドイツ戦まではエースとして先発出場していたFW(旧姓)永里優季が先発から外れ、彼女は大会初先発で大舞台のピッチに大抜擢。しかもクロスに飛び込んでの貴重な同点ゴール、相手GKが飛び出してクリアしたボールを拾ってからの華麗なロングループシュートによる追加点まで記録する2得点の大活躍。

 佐々木則夫監督からは「チーム内でも群を抜くスタミナのある選手」と紹介されて先発起用された彼女はこの日の活躍により決勝でも120分間フル出場して日本の初優勝に貢献。一躍「シンデレラ・ガール」となった人気選手になったのが、当時は25歳だった川澄奈穂美でした。

 その活躍ぶりと共に愛嬌溢れるキャラクターやルックスでも人気を呼び、「なでしこフィーバー」が続く中で数々のテレビ出演で引っ張りだことに。

 「川澄ちゃん」と呼ばれてお茶の間のアイドルのような存在となった川澄。ピッチ上での活躍も続き、W杯イヤーだった2011年は所属するINAC神戸レオネッサがクラブ史上リーグ戦初優勝を果たす中で、なでしこリーグの得点王とMVP、ベストイレブンの個人賞3冠を総なめ。
 翌年のロンドン五輪時には代表でも主力選手に成長しており、全6試合に出場して1得点。銀メダル獲得にも大きく貢献しました。
 2013年にもなでしこリーグで2度目のMVPを獲得し、ベストイレブンには2010年から4年連続選出。まさに、「なでしこリーグの顔」とは澤穂希ではなく、川澄奈穂美になったとまで言えるほどの活躍が続きました。

 そして、2014年。満を持して海を渡る決意をした川澄は各国の実力派選手が揃うアメリカのプロリーグに所属するシアトル・レインに期限付き移籍。ドイツW杯、ロンドン五輪と共に決勝で対戦した女子サッカー大国へ挑戦する事でさらなる進化を目指して海を渡りました。

原点回帰で進化~アメリカでもベストイレブン選出、バロンドール候補にもノミネート

 なでしこリーグにはほとんど外国籍選手がいないため、アメリカでは体格差のある欧米の選手のパワーやスピードに当初は苦戦。
 しかし、ボールのない場面での動き出しの速さや、攻守の切り替えの速さという瞬発性のスピードを頭の回転の早さでさらに活かすという部分に注力してパフォーマンスを向上させ、最終的には出場20試合で9ゴール5アシストを記録。ベストイレブンにも選出されるに至りました。

 もともとは運動量の豊富さを武器に代表にまで上り詰めた川澄は、なでしこリーグで個人賞を総なめにする中で個人で打開できる突破力と決定力を身につけて得点もアシストも量産する選手になっていました。
 しかし、アメリカに渡って受けたカルチャーショックにより、彼女は日本人の特徴や自分の特性について考えて原点回帰。 
 国際大会でも通用する打開力まで身につけていた彼女に、従来の運動量とオフ・ザ・ボールでの研ぎ澄まされた動き出しが加わったプレーはアメリカでも高く評価され、かつての「シンデレラ・ガール」はベールを脱いで成熟した名選手に変身。
 その功績は2014年度の女子バロンドール(世界最優秀選手)候補にノミネートされるほどにまで認められました。

 2014年9月に期限付き移籍を終えてINAC神戸に復帰すると、主力選手を大量に放出して極度の低迷に陥っていたINACをエキサイティングシリーズ出場へ導く活躍。
 ただ、そこには得点王争いをする過去の川澄の姿はなく、9試合1得点。今季も第11節終了時点で11試合4得点に留まっています。ポジションもかつての3トップの一角ではなく、4-4-2のサイドMFになっている事もあるのでしょうが、そこにはポジティヴな変化が観て取れます。

アーリークロスに大きな可能性を見せる「クラシック型」に変身

 渡米前の川澄は3トップの左サイドが所属クラブのINACでの定位置。利き足と同サイドにポジションを取る選手は縦に突破してクロスを送るというウイングの従来の役割から「クラシック・ウイング」と呼ばれますが、その役割は現在はサイドバックが主に担うためにクラシック型のウイングは減少傾向にあります。
 逆に、利き足と反対のサイドでプレーする選手はドリブルで中央に切り込みながら視野を確保できるため、多くのフィニッシュに絡んで得点もアシストも量産するような「インヴァーティヴ・ウインガー」(逆足の、という意味)と呼ばれるストライカー兼ウイングがモダン・サッカーのトレンドではありますが、現在の川澄は「インヴァーティヴ」を経て、「クラシック」型に変身して来ています。