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ベルギー代表の強さの秘密と可能性【中編】独特の育成改革

 そして、そのベールショットから引き抜かれ、アヤックスから輩出されたのがDFトーマス・フェルマーレンやDFヤン・フェルトンゲン、DFトビー・アンデルワイレルトといった現在のベルギー代表の重鎮となっている選手達です。今をときめくチェルシーのMFエデン・アザールもフランスのリールで育てられた選手でもあります。

それぞれの「色」を出す育成~本格派のアンデルレヒト、スペシャリスト型のヘンク

 ただ、いつまでもライヴァル国に育成を委ねているだけでは世界のトップクラスは遠い。そのため、徐々に育成環境を整備した中で、国内のビッグクラブ達が中心となって動き出したのが2005年前後。

 例えば、上記のベールショットとアヤックスの提携でスカウトとして選手発掘に手腕を発揮していたハーザールという人物がいるのですが、彼をベルギー国内では最大のクラブであるアンデルレヒトが引き抜きました。アヤックスにフェルマーレンやフェルトンゲン、AGOVVにはベールショット出身のムサ・デンベレなどを加入させた彼が、アンデルㇾヒトで発掘したのがFWロメル・ルカクやFWドリース・メルテンス。現ベルギー代表の主将DFヴァンサン・コンパ二も加えても良いかもしれません。

 理学療法などのセラピーも充実させた上で、15歳以上の選手に対しては1人に3畳ほどの個室ロッカールームを与えるなど「人を大切に扱う」姿勢を打ち出し本格派を輩出するのがアンデルレヒトだとすれば、べルギー国内のビッグクラブの1つであるヘンクは、代表のGKコーチも兼任するギ・マルテンスを筆頭に専門的な指導者を置く事によりスペシャリストを養成する育成スタイルを構築。GKテュボ・クルトワ、MFケヴィン・デ・ブルイネ、FWクリスティアン・ベンテケというヘンク出身の選手を見れば一目瞭然の特殊技能を持った選手達です。彼等は2011年に国内リーグ優勝を達成してから欧州主要リーグへ移籍し、多額の移籍金を残して羽搏いて行きました。

 また、以前からベルギー国内で「育成」の看板を掲げていたスタンダール・リエージュは練習施設がもともと世界トップクラスであるため、MFマルアヌ・フェライニやFWケヴィン・ミララス、MFアクセル・ウィツェル、MFナセル・シャドリといった脇を固める面々を輩出しています。質はもちろんですが、常に優秀な選手を輩出し続ける上で多作である事がスタンダールの特徴と言えます。

クラブが選手を、協会は指導者を 双方の協力による理想的な育成改革

 このように国内のビッグクラブが率先して独自のカラーを掲げて育成に注力している間、ベルギーサッカー協会は何をしていたか?協会主導で選手育成をするのには規模的に限界があるため、彼等は指導者を養成して各クラブに派遣する事に注力する事でベルギー国内のサッカーを底上げする事に貢献したのです。その際にもオランダの指導者からの影響を受け、当時のベルギーでは育成年代から「結果最優先主義」であり、喩えとして「ベルギー人の指導者は試合中ずっと立って叫んでいるが、オランダ人の指導者はずっと座っており、試合が終わってから相手チームの指導者と試合内容をお互いに冷静に分析していた」と表現されています。

 ベルギーサッカー協会はオランダからサッカーの内容面の大切さを学び、「自分達のサッカー」のガイドラインとなるビジョンを作成した上で、世界最高峰のタレントを育てるための「長所徹底育成主義」を導入。ここでも多民族国家ゆえの武器を活かし、持って生まれた身体能力や才能を伸ばす事を優先。左利きには右足の能力を補充するよりも左足のさらなる精度やパワーを磨く事を優先させ、類まれな感覚を持つドリブラーやチャンスメイカーには自由を与える。そんな環境から自然と、いや戦略的に世界最高峰のプレミアリーグでも十分に通用するトップタレントがどんどん育って来たのです。

 実際の選手の育成に関してはクラブに頼り切りの状態ですが、協会とクラブはそれぞれに役割分担が出来ていたという意味ではしっかりとした育成改革と言えるのではないでしょうか?ちなみに、各クラブのユースに独自のカラーがあるため、ユース年代で「移籍」を選択する事が多いのもベルギーの特徴。上記したような海外クラブへのユース年代での移籍と合わせて、国内のクラブユースでも「移籍」があり、アンデルレヒトとヘンクで育てられたメルテンス、スタンダールとヘンクで育てられたベンテケなどはその例に相当する選手です。

 身体の大きさやフィジカル能力、多民族国家という部分は全く違いますが、協会とクラブの協力による育成改革、代表チームの大半が海外クラブ所属選手で占められる構成。代表チームの人気高騰に反比例する国内リーグの不人気、その国内リーグはプレーオフ制度で成り立っている事など、ベルギーサッカーに起きている事は今後の日本サッカーにとって参考になる教科書ともなりえるのではないでしょうか?

 そんなベルギーの代表チームの現状については次回の項で改めて書きたいと思います。