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バルセロナユースのスカウトが持つ慧眼とは

 先週、たまたま7-0という同じスコアの試合を2つ録画観戦した。

 16-17欧州チャンピオンズリーググループリーグ第1節 バルセロナvsグラスゴーセルティック戦と、U-16アジア選手権グループリーグ初戦 日本代表vsベトナム戦。

 勝ったバルセロナとU-16日本代表、共通していたのは試合の終盤まで攻撃の手をゆるめず点を取り続けたことだ。両チームとも点を取って欲しい選手が期待通り取ったことも共通していた。

 バルセロナvsセルティック戦、グループリーグとはいえ、チャンピオンズリーグの試合でこれだけの大差がつくことは、そんなにないと思う。

 とかく力の差があるチーム同士の試合では、弱いと目されるチームがアウェーで戦えば、ゴール前をガチガチに固め、うまく行けば0-0、悪くても最少失点に収めようとするチームが多い中、セルティックが、そういう戦術をとらずに正攻法で戦いを挑んできたことも結果として、こういう大差がついた要因だろう。

 スカパーの試合実況を担当した倉敷保雄アナウンサーと解説の福田正博さんが「セルティックは勇気ある戦いをしましたね」と評していた。ある意味、相手にも恵まれないと、こういう試合にはお目にかかれないということだろう。

 もう一つの7-0、日本代表vsベトナム戦。2年前の前回アジア選手権ではベスト8で敗退したため、U-17世界選手権への出場権を逃している。今大会はベスト4まで進んで世界選手権出場権を獲得することが目標となっている。

 今大会の日本代表には、チーム最年少でありながら注目度ナンバーワンの久保建英選手がいる。カテゴリー別のAFC公式大会に初見参で、いわば、そのベールを脱ぐ大会になった。私もプレーを見るのは初めてだった。

 その久保選手、いきなりの見事なデビューを飾った。右サイドハーフでスタメン出場を果たした久保。前半16分、ペナルティエリアの近くで得たフリーキックを、得意の左足でゴール右サイドネット奥に突き刺した。名刺代わりの一発だった。

 大事な大会の初戦にスタメン出場を果たし、欲しい先制点を叩き出したのだ。この一撃でチームのエース的立場をも手中にしたのではないだろうか。

 久保は、試合後の取材で「試合前に『相手の壁が飛ばないから、あんまりコースを狙いすぎずにしっかり強くボール蹴れば入るよ』っていうのをアドバイスもらっていた」と答えたそうだ。

 NHK-BS放送の解説戸田和幸さんは「蹴る前のたたずまいからにして(決まりそうな)雰囲気を感じさせましたね」「自分の技術に対する自信からくる余裕を持っています」とコメントしていた。

 後半にはペナルティエリアの中、やや左側でボールを受けると軽いフェイクで目の前のDFをかわしエンドラインぎりぎりまでボールを持ち出すと、角度のないところからシュートを放ち、これも右サイドネットに決めた。

 これについても試合後に「最初はクロスを上げてみようかと思ったけど、GKが前に出ているのが見えて、『じゃあ、逆を狙ってみようか』と考えた」と答えたそうだ。

 確かに録画でも、GKが少し前に出ていたため、久保から見てGKの左側が空いており、久保は角度がないながらもそれを見切って余裕を持ってシュートしたのがわかった。

 それぞれの場面でキチンと判断でプレーをしている。試合全体としては、決して上出来ではなかったようで本人も「今回は初戦だったんですけど、次はもう言い訳できないんで、もっと余裕を持ってしっかりプレーしたいと思います」と話したそうだ。

(久保選手のコメントは、いずれもフットボールチャンネル掲載、元川悦子氏レポートより引用)

 7-0で勝利したバルセロナ。ハットトリックを決めたリオネル・メッシ、華麗なボレーシュートを決めたアンドレアス・イニエスタ、彼らを発掘して育てたバルセロナの育成システム。その育成システムに見いだされ下部組織に入団した久保選手、彼の2ゴール、1アシストを含む7-0で勝利したU-16日本代表。わずか数日違いでワールドサッカーニュースに報じられた2つの7-0から、私は、あらためて世界超一流のスカウト力、目利き力を思い知らされた。

 イニエスタ、メッシ、久保建英、これほどのサッカーセンスを持った子を、わずか10~13歳の段階で発掘してバルセロナに連れ帰るこの「目利き力」。これからの日本サッカーが学ぶべき大きなテーマではないだろうか。

 今回、久保選手のプレーを見て、また彼のコメントを読んで、痛感したのは、状況をよく把握していて、その状況に応じて余裕を持って(時間的には瞬時なのに、その中でも精神的余裕を持って)次のプレーの判断を下していることだ。

 いわゆる「サッカーセンスに優れている」というのは、繊細なボールタッチやフィードの正確性といった技術を生かす「ブレイン」と「メンタル」のトータルを指す。

 そのセンスを10歳前後の子供のプレーを見ただけで見分けられるのが、世界超一流のクラブたる証左なのだ。

 「FCバルセロナの人材育成術」という本が日本でも出版されている。私は本全体を読んでいないが、ネット上の「YGヤングジョカトーレ」というサイトが紹介しているその本の抜粋には、いみじくも「状況判断力というのは目にみえにくいものです。しかし、いくらボールを扱うテクニックが高くても、状況判断力が劣っていればゲームの中で発揮することはできません」とある。

 つまり、バルセロナのセレクション基準は「たとえゴール前のスクランブルの場面でも動じないで一瞬の判断ができる子」とか「相手チームの特徴を頭に入れて、それに応じた判断ができる子」にあることが明らかだ。