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やっと掴んだホーム初勝利!歯車が噛み合ったバニーズ京都SC

 そんな群雄割拠のなでしこ2部に、昨年末の入替戦を制して今季から2部へ昇格して来たバニーズ。開幕戦では敵地ながら昨季1部を戦った、ちふれASエルフェン埼玉を相手に勝利するという金星を奪った。

 しかし、その後は3分5敗と、中断期間まで1勝もできず。再開後初戦となった第10節、静岡産業大学磐田ボニータ戦も0-1と落とし、リーグ戦は9戦未勝利。下部リーグ時代から積み上げて来たパスサッカーが格上ばかりのチームが揃うなでしこ2部では十分に機能せず、10チーム中の9位が定位置化してしまっている。2部9位は、3部相当の『プレナスチャレンジリーグ』2位・FC十文字VENTUSとの入替戦圏内となり、降格の可能性も残る位置だ。

大型FW齋原みず希の初先発で変化したバニーズ

 9月9日、なでしこリーグ2部の第11節、バニーズは京都府立山城総合運動公園陸上競技場に第10節終了時点で4位のスフィーダ世田谷FCを迎えた。

 今季の世田谷は、『プレナスなでしこリーグカップ2部』で決勝進出。伊賀に敗れてクラブ史上初のタイトル獲得とはならなかったものの、クラブ創設者でもある川邉健一監督の下、「女子選手の特徴を活かしたサッカー」をしており、攻守においてコンパクトな距離間を保ってプレーする。また、昨季11得点を挙げたクラブ待望のエースFW長崎茜を筆頭に下部組織出身選手がチームの軸として台頭。下部組織から一貫した指導を通した育成型クラブとしても注目を集めている。

 バニーズはこの試合で3カ月以上ぶりに先発に復帰した酒井望の他にも、今年7月から加入しているFW齋原みず稀(上記写真:背番号29)が公式戦初先発。齋原は広島大学在学中の特別指定選手ではあるが、2015年シーズンには高校3年生にしてアンジュヴィオレ広島の一員として、なでしこ2部で25試合に出場して7ゴールを奪っている。また、現なでしこジャパンの高倉麻子監督の指揮の下、2014年には『FIFA-U17女子W杯』で初優勝を成し遂げた世界女王の一員でもあり、同大会で1得点を記録。すでに確かな実績を持つ171cmの本格派大型ストライカーだ。足下の技術も高く、ボールが収まる彼女が最前線に入ったバニーズは、中盤を飛ばしたロングパスを効果的に使うことが可能になった。

 もちろん、バニーズはポゼッション志向の強いチームであるため、ただ単にロングボールを放り込むわけではない。バスケットボールの「ファストブレイク」のように、ボール奪取直後に攻めに出ていた相手の裏を突く速攻や、最終ラインで相手のプレスを2、3本のパスでいなして相手を間延びさせてから放り込むことで、ロングボール攻撃は“放り込み”ではなく、“ポゼッションサッカーのアップデート”として有効活用している。

 また、齋原を狙ったレンジの長いパスに対して、「もともとそこが持ち味の選手」(千本哲也監督)である、インサイドMFの林咲希が齋原を追い越す動きによって攻撃を活性化させていた。今季の前半戦は伊賀に移籍したMF澤田由佳に替わって<4-3-3>のアンカーを任されていたMF林。開幕直後、「最終ラインからのビルドアップの工夫を任されている。セカンドボールの回収や前線からのプレスの連動に合わせた中盤・最終ラインの上げ方などの基礎的なところはもっと考えないといけない」と悩みながら話していたが、後半戦からは1列前で持ち前の攻撃センスと技術を豊富な運動量を伴いながら発揮している。

「相手を見ながらサッカーをする」

 そして、2年前までアンカーを務めていたDF山本裕美(背番号6)をアンカーに再コンバートする事で、チームとしての落ち着きも生まれている。

「前半戦の反省点として、自分たちとボールにしか視線が入っていない選手が多かったという部分があったと思います。サッカーは相手あってのスポーツなので、相手を見ながらサッカーができるように見直しをしました。」(千本監督)

 だからこそ、守備から攻撃への切り替え時に相手サイドバックが攻め上がったスペースに流れた齋原を使うロングボールや、中盤を飛ばしながら相手のDFとMFのライン間を狙った放り込みも使えるようになった。相手を見ながら、「今、どこにスペースがあるか?」を共有できるようになった証明だろう。

 この日も相手に先制点を許す苦しい展開だったが、72分に途中出場のFW佐藤が同点ゴール。85分には再び佐藤が逆転ゴールを挙げた。1点目はややラッキーな部分もあったが、アシストしたFW西川樹も、ゴールを記録した佐藤も、とにかく前のスペースを狙って突進したからこそ生まれた同点弾だった。

 逆転ゴールはゴール前で齋原に代わってFWとして投入された加戸が複数のDFとつばぜり合いを繰り広げながら作ったスペースに、佐藤が最高のタイミングで入って来て生まれたゴールだった。また、バイタルエリアで右サイドバックの草野詩帆とMF林が細かいパスを繋ぎながらお膳立てをするなど、攻撃に多くの人数をかけることが出来たうえで、空いたスペースを巧みに使った得点だった。

 最後はアディショナルタイムにその加戸が、焦って前に出ていた相手GKの位置を見て放った右足での華麗なロングシュートが決まって3-1。

 バニーズがリーグ戦では10戦ぶりの勝利を飾り、ホーム初勝利を掴むと共に、攻撃的なチームとしては最も重要な自信を取り戻す勝利となった。

ボールもゴールも勝利も奪い合うスポーツ

 もともと昨年の入替戦出場権を勝ち取った十文字戦も、「ロングボール蹴り合い大会のようになっていました」(千本監督)と言うように、バニーズはチャレンジリーグ時代から相手を見ながら選手が自主的にサッカーができるチームだった。上記したような変化も、「なでしこ2部という環境にやっと慣れて来た」、ぐらいの変化なのかもしれない

 とはいえ、この試合の決定機はバニーズより世田谷の方が多かった。GK山田紅葉の好守や、相手のラストパスとシュート精度の低さに救われた部分も大きい。それでも3得点奪えたことが自信に繋がるはずだ。

 「ボールを支配し、主導権を握って勝つ」、のは理想だが、サッカーは相手あってのスポーツなので、まずボールを奪えなければ何も始まらない。そして、何より勝敗は単純な「点取りゲーム」で決まる。

 サッカーとは本来、この日の酒井望のように感情を爆発させながら相手とボールを奪い合い、ゴールを奪い合い、勝利を奪い合うスポーツである。それを約2年間も公式戦から離れていた元日本代表の加戸(背番号16)が途中出場とはいえ、率先して体現している姿は観ている者を熱くさせてくれる。